映画に学ぶ30歳からの女の生き方 Vol.2「お母ちゃん」という生き方〜 「湯を沸かすほどの熱い愛」

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温かなまなざしを感じる中野量太監督メジャーデビュー作

遅ればせながら、中野量太監督のメジャーデビュー作「湯を沸かすほどの熱い愛」を見てきました。思い出してもいまだに涙がじわじわとこみ上げてくる、なんともいい作品でした。

昨年の秋に公開された頃にはまだまだ上映館も少なかったのに、評判が評判を呼んで、年明けてからは上映館も拡大し、ロングランにもなり、大ヒットとなっているこの作品。

個人的には、「うれしい誤算」ともいうべき作品でした。正直、最近やけにコンスタントに作られている中高生向け恋愛映画のジャンルにおいて、「余命幾ばくもないヒロイン」というモチーフがあまりに多用されているので、公開当初は及び腰だったのです。

もちろん、宮沢りえがこの役を引き受けて演じている時点で、そんな幼稚で甘いことではないのだろうなとは思うわけですが、それにしても監督の温かなまなざしが感じられる、熱い思いの詰まった映画に驚き、みずみずしい感動を覚えました。

地に足つけて生きていく女の強さと包容力には誰もかなわない

宮沢りえ演じる主人公双葉(ふたば)は、銭湯「幸の湯」のおかみさん。1年前にだんなは蒸発し、銭湯の休業を余儀なくされて、パートをしながら女手一つで中学生の娘を育てている。そんなある日、双葉は突然ステージ4の末期がんと告げられる。

彼女は嘆き悲しむのも早々に、死ぬまでにやることリストを実現すべく、モーレツに、どちらかというと張り切り気味に、やにわ行動を始める、というのが物語のはじまり。

©「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

この映画は、女の映画です。主要キャストは母とふたりの娘。オダギリジョー演じるだらしない父親や、偶然出会う旅の若者など、男性も幾人か出て来るものの、ハーバート・ロス監督が描いた3人の女の友情映画のタイトルのごとく、まさに「ボーイズ・オン・ザ・サイド」、つまりこの作品においては、良くも悪くも男は添え物的な存在というわけです。

こういう映画を見ると、女に生まれて良かったなと思ってしまいます。地に足つけて生きていく女の強さと包容力には誰もかなわない。女はどーんといて、確かな存在感を持ち、それに比べると、男は愛すべき寄る辺ない生き物、というかんじがします。

同時に作品は、誰もが自分では選ぶことのできない母子という関係性のなかにあり、それを捨て去ることは生涯できないのだという人の業、誰もが求めてやまない「お母ちゃん」への思慕を描いています。母子家庭に育った中野監督が、自身の母に捧げるオマージュでもあるのだと思います。

また、この映画は、女優の映画です。宮沢りえは、白くて細くてたおやかで、一見とても銭湯の肝っ玉かあさんという柄ではないのですが、同じ女として母として、見ていてすごく説得力があるのです。

一本筋の通った凛とした清潔さや、懐の深い大きな優しさといった、宮沢りえという人自身の人柄が、双葉というキャラクターと重なり合って、双葉を納得性のある存在にしていると思います。

ふたりの娘たちの演技がすばらしいのも、物語と役柄に心から共感できる脚本の力と並んで、彼女らの「母」である宮沢りえの存在は大きかったのではないかと想像します。

「お母ちゃん」という生き方

この映画には、世の中的にはあんまり成功もせず、平凡でささやかで短い、一人の女性の生きざまが描かれています。

それは「お母ちゃん」という生き方です。

物理的に母親かどうかということではありません。実際、双葉は二人の娘のどちらとも血がつながっていないし、出産はしていない。むしろ、二人の娘の本当の母親たちは、「お母ちゃん」であることを放棄している。そして、双葉は縁あって袖触れ合った周囲の誰もに対して「お母ちゃん」なのです。

お母ちゃんというのは、いつも自分を後回しにして、身近な人たちのことを常に気にかけ、具体的な世話をやくという「生き方」のことです。誰も見捨てない生き方とも言えると思います。

女という生き物には、「誰かの世話をやく、命を支える」という役割が、多かれ少なかれ本能として含まれているのではないかと、年取るごとに思うようになりました。女性がある程度年を重ねたら、もう自分のためだけに生きていくことは、相当しんどくなってくるものだと思います。

無論、人には色々なタイミングや巡り合わせがあり、お母ちゃんになるばかりが人生ではないのは言うまでもありません。けれど、自己意思で人生をコントロールできるというスタンスから少し離れて、女という生き物の持つ「本能」にゆだね、時には全部は無理だとあきらめもし、自分なりの生きる意味を今いちど考えてみたい。私もいずれ死ぬし、もう人生の折り返し地点を過ぎたのだから。そんなことを映画を見ていて感じました。

©「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

この映画を見ながらずっと、大好きだった死んだおばあちゃんのことを思い出していました。

誰でも彼でも家に入れ、何でもかんでも人にあげてしまって、自分は旅行ひとつ行こうとはせず、いつも落ち着いて焦らず、細々を手を動かしていて、目の前の人にはとにかくお腹いっぱい食わせることを自分に課していた、いつも与える一方だったおばあちゃんのことを。

基本データ

2016年/日本・125分

監督:中野量太

出演:宮沢りえ、杉咲花、伊藤蒼、オダギリジョー、松坂桃李ほか

オフィシャルサイト:http://atsui-ai.com/

2016年10月より全国公開中

この記事を書いた人

大島青
大島青
映画館で見る映画と午後5時からの赤ワインをこよなく愛するウェブライター。
ドラマやコメディーを中心に年間150本ほど鑑賞。ホラーとハリポタ的CGファンタジーはほぼフォロー外。人間の本質を、愛のあるまなざしをもって描いた作品が好きです。

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